オピニオンリーダーに聞く

よい医療を受けられる社会は優しい思いやりのある社会
そのために、力をつくしたい。
 
第1回 中村直行氏

愛妻ががんでなくなったことをきっかけに、それまでの経営学に加えて、医療情報についての学問をはじめた。 もう個々人の思いだけでは、医療を変えることは無理と思った。社会全体の体制を変えていかない限り、よい医療は受けられないと思い至ったとき道は開けた。 よい医療を受けられる社会は、優しい社会にちがいない。 中村直行氏が目指している医療体制は、国も行政も企業も巻き込んで、社会から変わっていかない限り、現実は不可能だ。しかし、話を聞いているとそんな社会が実現しそうな気がしてくる。


中村直行氏 プロフィール
1954年生まれ、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。
博士(学際情報学)。
統合医療福祉中村直行研究室代表、帝京平成大学非常勤講師、
専門は統合医療情報学、NPO論、社会福祉援助技術論、厚生労働省がん研助成金研究班協力者、日本緩和医療学会ガイドライン作成委員等を歴任。

医療情報分野に進むきっかけとなったのは、妻をがんで亡くしたことからだった。 胃と卵巣に同時に腫瘍発症する、()クルッケンベルグ腫瘍というがんで、発見した時点で余命3カ月でした。けっきょく余命を全うしましたが、このときに情報を求めて奔走したことが、今の私をつくっています。 これほどに情報が氾濫しているのに、必要としている情報がない。情報を具体的に使うことができない、選択できない、苦しく辛い経験をしました。 このときに、私たちはみな医療情報弱者なのではないかと思い至りました。がんという生命がかかった病気で悩んでいる方々に必要な情報が本当に届いているだろうか。正しい情報があったら生命が助かる場合もあるのではないか。 そしてさらに、受けている医療に満足しているだろうか。医師は患者ときちんと向かい合っているだろうか・・・・インフォームド・コンセントとセカンオピニオンは言葉だけ一人歩きしているのではないだろうか。病人と家族にとって理不尽な医療であってはいけない。これが相談事業の根幹なのですが、そうしたことに考えが及び、医療情報分野の研究を始めました。

クルッケンベルク腫瘍
主に胃がんを原発に卵巣へ移転する腫瘍を特にこの名前で呼ぶ。 腹膜に種をまいたかのように胃がんの細胞が転移し、小さな結節(塊り)をつくって、徐々に大きくなったり、腹水がたまったりする。発見されたときは手遅れのことが多く、ほとんどの場合予後が悪いといわれている。つまり生存期間を切られることが多い。

行政も巻き込まないと実践できない

しかし、実際に経験をしてみると個人がボランティアで、あるいは仲間を募って、という単純なやりかたには限界があることがわかりました。たとえば、研究会をつくるには動態調査が必要で、そうなると小さな組織が細々と調べていても全体は把握できません。また、がんに限らず、病気をしている人とその家族は、体だけではなく心も痛んでいます。 体という側面からだけではなく、心の面のケアも必要だと思うのですが、全人的にとらえて医療を施すということになると、個人の力など大河の一滴です。行政を巻き込まないと、有効な調査もできないし、対策をたてても実践できません。 現在、がん患者さんの半数が用いているというデータがある代替医療にしても、巷に氾濫しているのに、選択する評価基準がありません。医師にも知識がありませんから、病人は医師に相談できないわけです。それもそのはず、代替医療をカリキュラムに取組んでいる医学部はたった3校しかないんです。アメリカでは125校中65%が体系的に取入れています。私も代替医療に関しての、厚生労働省の研究部会にも参画した経緯があります。 今、統合医療福祉・在宅医療に関する取組みを進めています。現在ターミナルをむかえる場は85%が病院ですが、50年前は50%でした。行政は再び50%に戻そうとしています。また私たちは住み慣れた家で寿命を全うしたいと思うものです。そのためには、緊急時に対応する総合病院の医師と地域の家庭医の連携、疼痛管理をする医師との連携、訪問看護師や保健師、栄養士の派遣、24時間対応の在宅医療の中核になるセンターの設置など、一人の患者さんを看取り、同時に家族のケアをするには、大勢の医療関係者やボランティアの手が必要です。

一般社団法人統合医療福祉中村直行研究室の新たな取り組み
セカンドオピニオンそして医療コンシェルジュへ

セカンドオピニオンの重要性が叫ばれてから久しいですが、いったいどれくらいの方々がセカンドオピニオンを有効に活用しているのでしょうか。今の日本の医療事情を考えると、医療に関心があるか、またはしっかりした情報を持っている方以外は、あまりセカンドオピニオンを有効に活用していないのではないでしょうか。例えば、悪性腫瘍いわゆるがんと診断された場合はどうでしょう。その進行具合、がんの発症部位によって治療方法もさまざまであり、患者への負担もさまざまでしょうが、当然、患者側と医師側が相談しながら治療を進めていきます。しかし、その過程で、双方に意志の疎通がうまくいかなくなり、患者側が医師を信頼できなくなる場合が多々あるのです。セカンドオピニオンはそんな患者側の不安を解消するために発展してきました。しかし、セカンドオピニオンの先進国の米国とは国民の気質や医療体制も異なる日本ではセカンドオピニオンがうまく機能していないのではないかと思われてしまいます。従来、日本人は、治療を医師に任せきりでいました。それは無責任ということではなく、素人の考えでは専門的なことが分からないからでしょう。医師側もそれが当然のごとく思ってきた節もあります。しかし、インフォームド・コンセントやセカンドオピニオンと叫ばれて、医師も患者側によく説明しようと努力をしています。でも、うまく通じなかったり、患者側も情報や知識が無いばかりに医師との間に感情のわだかまりを持ってしまうことも多々あります。また、セカンドオピニオンで違う医師を紹介してもらっても、日本の医療体制は、徒弟制度の域を出ていない故に、または、治療方法に偏りが出ないように同じような治療方法に統一している場合が多いために、おおよそ同じ回答が返ってくる場合が多いのです。そんな状態の中で、素人の患者側がうまくセカンドオピニオンを利用できないことも無理もないことではないでしょうか。 昨今、話題に上りつつある「医療コンシェルジュ」は、そんな状況を打開する新しい光のように見えてきます。以前からホテルなどで宿泊人のあらゆる相談に乗る案内人としてコンシェルジュ(Concierge)が活躍していますが、医療コンシェルジュも医療の知識を持った人あるいは団体が、より良い治療へと案内すること。最近では、病院内にコンシェルジュを設けているケースが多く見受けられます。しかしながら、それはあくまで、その病院内での案内人であり、その枠を出ていないのです。 当法人では、独自のネットワークを使い、各病院の枠を超えて、セカンドオピニオンやその他さまざまな相談に乗ることができる医療コンシェルジュとしての役割をさらに推し進めていこうと考えています。 また、ダイエット医療コンシェルジュは、統合医療を推進する上で、非常に重要な役割を担っていくことでしょう。ますます期待は高まります。

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